最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)215号 判決 1968年8月29日
上告人
合資会社
中山車体製作所
右代表者清算人
中山一二
代理人
荒木鼎
被上告人
春田義治
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人荒木鼎の上告理由(上告理由補充書を除く。)について。
所論検証の結果についていう上告人の判断遺脱の主張は、民訴法四二〇条一項九号所定の再審事由に当らないとした原審の判断、ならびに証人若宮清二の証言および被上告人(被告)本人の供述が虚偽である旨の上告人の主張は、同条一項七号、二項所定の再審事由に当らない旨の原審の判断は、いずれも正当として是認でき、原判決には所論違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でなく、所論は独自の見解であつて採用できない(なお、当審において、かりに所論若宮清二に対する起訴事実について原審口頭弁論終結後である昭和四二年三月二日有罪判決が確定した旨主張されたとしても、右有罪判決確定の事実は、原判決に対する再審の訴の再審事由となるものではないから、右主張を本件上告の理由として採用する余地は存しない)。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官松田二郎の反対意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官松田二郎の反対意見は次のとおりである。
民訴法四二〇条一項七号、二項後段に該当する再審事由が適法の上告理由になりうることは、当裁判所の判例とするところである(昭和四〇年(オ)第一一八〇号、同四三年五月二日第一小法廷判決)。これは、原判決に右の再審事由があるとき、その判決には違法があるとするものである。そして、そのような再審の事由が民事訴訟規則五〇条に定める上告理由書提出期間経過後に具備するに至つたときであつても、当裁判所は民訴法一五八条により、その期間を伸長して、これによつてそのような事由の主張を可能ならしめたのである(右事件参照)。
今本件についてみるに、上告人は、先に被上告人との間の熊本地方裁判所昭和三七年(ワ)第二二二号損害賠償等請求事件において敗訴し、その控訴審である福岡高等裁判所において控訴棄却の判決を受け、これに対して上告し、上告棄却の判決を受けたものであるところ、右福岡高等裁判所の判決の証拠となつた証人若宮清二の供述は虚偽であるとして、福岡高等裁判所に再審の訴を提起したのである。しかるに、再審の訴を却下するとの判決を受けたので、これに対し当裁判所に上告したところ、民事訴訟規則五〇条の上告理由書提出期間経過後である昭和四二年二月一五日に至つて、右若宮清二は前記熊本地方裁判所昭和三七年(ワ)第二二二号事件の証人として虚偽の陳述をしたとして、熊本地方裁判所において「懲役六月に処する。この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する」との判決を受け、右判決は同年三月二日確定したので、上告人はこれを新たに上告理由として追加したのであり、該有罪の事実は当裁判所に顕著なところである。そして記録によれば上告人と被上告人との間の訴訟事件において、証人若宮清二の供述が右当事者間の熊本地方裁判所の損害賠償等事件の判決の重要な証拠となつていること、従つて右証人の供述がまた同事件の控訴審である福岡高等裁判所の判決においても重要な証拠となつていることが窺われるのである。
してみれば、前記当裁判所の判決の見地に立つて右福岡高等裁判所の判決を考察すれば、同裁判所が民訴法四二〇条一項七号、二項所定の再審事由がないとして再審の訴を却下したのは違法であつたことに帰し、従つて本件上告は理由あるものといわなければならない。もつとも、この上告理由は前記のごとく民事訴訟規則五〇条の期間経過後に新たに主張されたところではあるが、当小法廷が前記別件について上告理由書提出期間を伸長した以上、本件についても同様伸長の決定をなすべきである。しかして、もし多数意見によるときは、前記証人が右のごとく処罰されたのにもかかわらず、上告人の保護の点において著しく欠けるに至るのである。
要するに、私は上告理由書提出期間伸長の上、本件上告はその理由があるものとし、原判決を破棄し、更に審理するため、本件を原審に差し戻すべきものであると考える。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 大隅健一郎)